「視点を変える」というキーワードから見る『ベイマックス』とそのマーケティング戦略について。


2014年ももうすぐ終わりですね。ハバネロです。
リアルもネットもアイマスPライフも割と波瀾万丈だった一年だったのですが、ブログの方はほんとほったらかしでしたね!去年みたいに作品について語る記事をほっとんどアップできなかったのはちょっと心残りだったりします。

……なんですが、今年も押し迫った時期にちょっとひとこと書いておきたい作品が彗星のごとく現れました。それが表題にある『ベイマックス』です。

※ネタバレは極力避けたつもりですが、もしかしたらやらかしてるかもしれないのでそういうのが嫌な方はあらかじめ回れ右でお願いします。

正しくも間違ってもいない『ベイマックス』のマーケティング戦略。

 『ベイマックス』(以下「本作」と表記)という作品は、公開前から特に日本でのマーケティング展開についてネットで話題を集めていた印象があります。

●ベイマックスの日本での宣伝方法は間違ってるんじゃないかと思って調べてみたら、いろいろ面白いことがわかり... | かたログ

この記事にまとめられているように本作はマーベルコミックス原作のヒーローものなのに、日本版のPVは主人公ヒロとベイマックスのハートフルな交流に絞り過ぎではないか?という話ですね。
僕は逆にこの記事でマーベルコミックスをディズニーがアニメにするとか面白そう!」と思ったので見に行くことを決めたわけですが……w

さて、商業的ないわゆる大人の事情はさておき、この宣伝方法についてですが、実際に作品を見てみた感想としては「完璧に正しくもないし、間違ってもいない」というものでした。
いや、だってあんまりにもいろんな要素が詰まりまくってるんですもの、この作品。

まず、マーベルコミックス原作ということでヒーロー物としての要素。
過去に映画化されたマーベル作品へのリスペクトめいたところも散見されました。
戦闘用にベイマックスを改造したりするシーンや、科学技術の暗黒面に飲まれて暴走する黒幕の姿にサム・ライミ監督版の『スパイダーマン』を、ベイマックスの飛行テストのシーンには『アイアンマン』をついつい重ねてしまいましたw
「何のために戦うのか、何が正義なのか?」というヒーロー物には欠かせない命題をきちんと描いているところにも好感が持てます。
「大切な人との別離を乗り越えて戦う決意を固める」なんてのもヒーローものではおなじみの展開ですよね。その辺をさしてこれは『天元突破グレンラガン』だと言ってる人も見かけて納得しましたが……w
チームで個々の能力を活かして戦うヒーローということで、『X-メン』や『ファンタスティック・フォー』、あるいは日本の戦隊モノにも通じるものがあります。

また、ヒロとベイマックスの間の優しさ溢れる交流というのも間違いなく重要な要素です。
ロボットとしての使命を持ちそれに忠実にあろうとするベイマックスとヒロの関係には、どことなくディズニー映画『アラジン』のアラジンとジーニーにも似た友情を感じたりとか。もっと有名な例を引くなら『ドラえもん』や『キテレツ大百科』っぽいところもありますよね。
あるいは、「使命を忠実に遂行するうちにどこか人間臭さを増していくロボット」の話としては、『ハル』や今年話題をさらった『楽園追放』なんかとも重なる部分があるかと思います。

他にも、ヒロと兄タダシの絆も重要な要素だし、単なるテクノロジー賛歌に終わらず科学技術の濫用に対する警鐘も鳴らすちょっと社会派なエッセンスもあったりと、『ベイマックス』が内包する要素はとてもたくさん。

そうした要素の中で日本における宣伝では「ヒロとベイマックスの交流を描く」ところに力点を置き、それについて「アナ雪の二匹目のドジョウ狙ってんじゃねえ!(要約)」という批判があったりもしました。
でも、これは間違っているとは言えないと思うんです。むしろこの作品を貫くキーワードを考えるなら、よくやったと言っても良いんじゃないかなと。
その理由についてはで詳しく書きます。

キーワードは「視点を変える」。

本作のキーワードはなんであろうかと考えた時に、僕は「視点を変える」という劇中の台詞が思い浮かびました。
このフレーズが劇中で特に印象的に使われたのは、大学の入学試験にパスするための発明のアイデアに詰まるヒロにタダシがアドバイスするシーンと、黒幕との最終決戦で窮地を脱するべくヒロが仲間たちに同じ言葉をかけるシーンだったと思います。

作中、ヒロが兄タダシから受け取ったものはとてもたくさんあります。
研究に没頭する楽しさ。
自らの才能を活かす場としての大学入学のチャンス。
誰かを思いやる優しさ。
共に戦う仲間たち。

そうした諸々を全部詰め込んだ存在がベイマックスなのですが、それともう一つ、タダシ自らヒロに与えたアドバイスが「視点を変える」というやり方です。「応用力」と言ってもいいでしょうか?実はこれが一番大事な要素なんじゃないかと思うわけです。
それが最も印象的に効いてくるのは、兄からもらった言葉を窮地に陥った仲間たちに改めてかけるクライマックスの決戦シーンなのですが、細かく要素を拾っていくとそれが活きるシーンは他にも見えてきます。

例えば、ベイマックスや仲間たちの研究を上手く活用・改良して戦いに堪えうるものにしていくシーン。それぞれ研究の成果としては不完全な部分もありますが、上手く使えば戦いに応用することができる。これも一つの「視点を変える」やり方ですよね。
個人的にはいろいろ試行錯誤を重ねていくこのくだりは、「ああ、スタッフが科学好きなんだな」って分かってすごい好きなシーンだったりします。

一度は復讐心にかられるも、兄の真意、そして黒幕の正体とその背景にあった事情を知ることで態度を改めるヒロ、というくだりもそうだと思います。倒すべき敵も、実は別の事件の被害者であり、心の傷と憎しみを抱えていることは自分と同じ。兄がどれだけの熱意をこめてベイマックスを作り、そして自分に託したのか。それにヒロが気づくことが出来たのは、別の視点に立つ事ができたからではないでしょうか。
ここでは、ヒロがベイマックスのカメラを通して見たタダシの姿を見るというシーンが入ることで「視点を変える」というフレーズが直接出てこないにもかかわらず、それを強く感じさせるものになっているのも演出の妙でしょう。


さらに言えば、この「視点を変える」という方法はベイマックスからは得られないのです。
何故か?
それは、ベイマックスが人命を守る使命に忠実な「ロボット」であるからです。

作中で、ロボットとしてのベイマックスが持つある種の「融通の効かなさ」は、作中でとても上手に使われています。だからベイマックスは、ある時は愛嬌溢れるコメディリリーフとして、ある時は優しく強いタダシの友達として、またある時は科学の負の側面を表す要素として、魅力的なキャラクターに描かれていきます。そしてこれがあるからこそ、クライマックスのあるシーンが感動的なものになっているといっても良いでしょう。
しかし一方で、これがあるからこそ「視点を変える」ということがベイマックスには出来ないんですね。なぜなら、使命に忠実であるということは、応用力に欠けるという欠点を孕んでいるからです。急ぐべき時でもゆっくり動いたり、音を立てるなと言われても起動音がしちゃったりするシーンが作中ありましたけど、状況によって臨機応変に、というのはロボットにはとても難しいことがここから伺えます。

だからこそ、めまぐるしく状況が変わる戦闘においては、ヒロの持つ「視点を変えるんだ」という考え方が必要になってきます。実際、ブレーンであるヒロを欠いた戦いではチームは連携が全く取れない状況でした。そしてリベンジマッチとなった最終決戦では、まさに「視点を変える」というやり方が状況を打開し、勝利を引き寄せることになるわけです。
力だけじゃなくて頭使って勝つヒーロー。ヒロ、めちゃくちゃカッコイイじゃん!

……そして、それが活きたのは間違いなくタダシからヒロに「視点を変える」という言葉が継承された結果であると思います。タダシはもしかしたら、ベイマックスにはこの言葉を託すことは難しいと分かっていたのかもしれません。だからこそ、直接生きたアドバイスとして「視点を変えるんだ」という言葉を託したようにも思えるのです。
もっと言うと、この考え方は科学の世界ではかならず必要になってくるものですし、そうした意味も含めると、この言葉にはベイマックスに託せなかった「ヒロには才能を活かして科学者として大成して欲しい」というタダシの願いがこめられている気がしてきますね。

そういう視点でこの作品を見ていくと、本当に科学技術に対してとても誠実な目線を持って作られているなあと思います。
研究にまつわる楽しさ、試行錯誤や失敗、そしてそれを打開する視点の転換。時には取り返しの付かないことを引き起こす負の面もも、それでも誰かを救う力になりうるという面も、全てをひっくるめて科学、テクノロジーなんだっていうメッセージを感じられるつくりになっているんじゃないでしょうか。

いくつもの「視点」を持ちうる物語だからこそのマーケティング戦略。

さてさて、そうしたことを踏まえて最初の本作におけるマーケティング問題に話を戻してみましょう。
既に述べたとおり、本作には様々な要素が存在しています。

●世界各国で異なる「ベイマックス」ポスター マーケティング手法の違いが顕著に : 映画ニュース - 映画.com

そんな状況なので、上の記事で紹介されているように本作のマーケティング手法は国や地域によってさまざまです。いろんな要素にスポットを当てたポスターの数々は見ているだけでも楽しいのですが、果たしてこれに「正しい」「間違っている」というレッテルをひとつひとつ貼っていくことは必要なのでしょうか?
様々な要素のどれを取り上げるか?」ということは、言い換えれば「本作のどこに視点をあてるか?」ということであり、それこそ各国の宣伝担当者が知恵を絞って「視点を変えた」結果ではないでしょうか。

マーケティング的な面だけでなく、科学的な面に立っても、ある問題について視点を変えた幾つもの回答が存在するということは日常茶飯事です。
だからこそ、ロボットという科学技術の結晶を物語の中心に据えた本作において、さまざまなマーケティング戦略が存在することは、様々な要素――すなわち、さまざまな視点が存在する『ベイマックス』という作品らしくてとてもいいんじゃないかな、と思ったりしたわけです。どれが正解とか間違っているとかじゃないんです。いろんな視点、いろんな方法で宣伝されているこの状況は、本作のマーケティング戦略としてはある種一番適切な状態かもしれないんだよ!ってお話でした。



まあ、これだけ色々フックがあったらそのうちどっかひとつは多分誰にでも引っかかると思いますし、そんな小難しいことはさておき、見終わったあとに「うちにもベイマックス一台欲しいな」と思える作品になってるので、ほんとよく出来てると思います。
僕なんて、映画館でカップルと女の子二人連れに挟まれて野郎一人で見る羽目になり、感動と辛さが混ざった涙を流した結果、「この精神的な痛みを癒してくれるベイマックスが欲しい!!」と切に思いましたからね!
2015年の目標が「人間でも無機物でも良いから優しく受け止めてくれる存在を手に入れる」ことになった瞬間でした。とりあえずちょっと艦これ開いて夕雲に甘えてくる。


……それでは皆様、良いお年を!!!
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