音楽に彩られた恋の物語―杉井光「さよならピアノソナタ」

20選まとめ動画にアイキャッチ描いたよ、って報告もしてねえし、たまゆら一挙放送にかこつけて放送当時書けんかったたまゆらの話をしようとか思ってたらいつのまにかタイミングを逃すgdgdっぷりで、いったいこのブログは何のためにあるんだと小一時間(ry
ハバネロです。

というわけで(どういうわけでだ)今回は久々に本の話。お題は杉井光さよならピアノソナタです。

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈3〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈3〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)

もともと昨夏僕が同じ作者の「神様のメモ帳」にハマりまくってた頃にtwitterやブログのコメントやらでオススメされてた作品でして、なにやらバンド物らしいという話だけは聞いてたので、頭の中の「そのうち読む」リストには突っ込んであったのですが色々あって(本当に色々あって)手を出す機会を失っていたのですが、先日ふらっと行きつけのブックオフに立ち寄ったらシリーズが全巻投げ売りされてたので確保。
それで二週間くらいかけてシリーズ全部読破したわけで……
いやあ、なんで俺この作品今までスルーしてきたんだろう!?
って思っちゃったくらいには僕好みの話でした。


春休み、音楽評論家を父親に持つ主人公・桧川直己は、粗大ゴミの集積場でピアノを弾く少女と偶然の出会いを果たします。その少女はしばらく前、ある事件を契機に楽壇から姿を消した天才ピアニスト・蛯沢真冬だった。
高校に上がってクラスメイトとしてまさかの再会をした直己と真冬。しかし彼女は空き教室に籠ってギターを掻き鳴らすばかり。しかもその教室というのはもともと直己が無断使用していたもの。部屋の使用権を賭けて、真冬と直己は勝負をすることになるのですが、そこに「革命家」を自称する神楽坂先輩や直己の幼なじみである千晶も絡んできて、というのが一巻のストーリー。
その後四人でバンドを組むことになり、巻を追うごとに合宿、初ライブ、合唱コンクール、体育祭、文化祭などイベントを通して絆を深めていくある意味王道の青春ストーリーが展開されてゆきます。

あらすじはこんな感じで、ほんっとーに割とよくある青春バンドストーリーなのだけども、キャラクターと話の展開がほんっとーによく出来ていて、素直に感動させられてしまう自分がいるのがなんかもう。

メインヒロインの真冬も、最初は「こんな典型的ツンデレなキャラクターとか萌えないわーむしろ腹パンしたいわー」とか思ってたのに、気づいたら可愛く見えてくる不思議。
とくに、直己に対する思いを自覚してからの可愛さはヤバイ。マジやばい(日本語が不自由)
僕が一番好きなのは(大方の予想通り)神楽坂先輩で、かっこいい先輩キャラ(ベン・トーの槍水先輩とか)が大好きな人間にはたまらんキャラだったんですが、ちょいちょい見せる弱さがもう。二巻のあのシーンは僕がナオだったら間違いなく落ちてた。番外編の短篇集では彼女の過去が明かされるんですが、その年でちょっと壮絶な経験をし過ぎでしょう貴女……
千晶もテンプレート的な暴力的幼馴染でありながら、ナオに思いを寄せつつナオと真冬、双方の後押しをするというまたよく出来たキャラでした。なんでこの手の話は幼馴染が割を食うって決まってるんでしょうか。

そんでもって主人公のナオこと直己くん。有能なのに鈍感ヘタレというもうなんかどうしようもないヤツ。
神メモの鳴海くんといい、なぜ杉井世界の主人公は覚醒するとめちゃくちゃすごいのにあそこまでヘタレで鈍感なのか……と思ってしまうんですが、少なくともヘタレで周りに振り回されるキャラクターって僕の場合めちゃくちゃ感情移入出来てしまうので、神メモといいこの作品といい、杉井作品が肌に合うのはこの手の主人公だからってのもあるんだろうかなあとか。しかしなんでこいつがモテるのか判らん……w
ホント真冬はこいつ相手によく我慢したというか待ってあげてたなぁ……とラストまで読んで思いました。

あとメインキャラのみならずサブを固める面子もまた素晴らしい。特にナオの父親で自称音楽業界ゴロの哲朗がほんといい。ダメ人間なんだけど要所要所でカッコイイから許せてしまう不思議。


で、この物語の魅力の半分はキャラの力なんだけども、もう半分は構成というか物語としての出来の良さ。
一巻ごとに四季をなぞっていくという全体の構成もとても良いし、一巻のラストで出会った場所に戻って大切な物を取り戻す、という展開をやったあとに物語全体のオーラスでそれをもう一回やってみせる、というのもニクイ演出だなあと。
伏線の貼り方も非常に上手いというか、クライマックスで「これが全部伏線だったんだよ!!」ってばばーんって見せるのではなくて、クライマックス手前くらいでもう「ああ、これとこれが伏線だったんだなー」って分かる書き方をしてるんですが、それが逆にクライマックスの爆発につながるというか……。読んでるこっちの感情を巧みに操っている感すらあるんですが、それが全然不快じゃなくてむしろ楽しい。一・二巻のクライマックスはほんと素晴らしかった。


そして、全編にわたって重要な役割を果たす音楽の要素。
音楽を扱う以上演奏シーンをいかに描写するか、というのはひとつの見所であり書き手にとっては超えなきゃならないハードルな訳ですが、正直たびたび鳥肌が立つくらいでした。それくらい素晴らしかったのです。
ピアノが、ギターが、ベースが、ドラムが、あるいは他の楽器が。それぞれが奏でる音の振動すら伝わってくるかのような。特に素晴らしかったのは一巻、レッド・ツェッペリンの「カシミール」を演奏するシーンと、クライマックスで真冬の弾くピアノがひとつの奇跡を起こすその瞬間。もうなんかホントに音が見えるというか聞こえるというか。
その点、おそらく作中における「最高のアクト」だったはずの文化祭における演奏シーンがあえて描写されなかったのはちょっと残念だったかも……

あと残念といえば残念だったのが、出てくる曲がほとんど分からないというか、僕お得意の「タイトルだけ知ってて中身まったく触れたこと無い」ものばかりだったことでしょうか。
クラシックと洋楽ロックがメインになってくるんですが、そのへんはろくすっぽ触れないままここまで大きくなってきたヤツなので…… ほぼ唯一分かったのが三巻の文化祭でナオたちのクラスが披露したQueenの「愛にすべてを」だったという。確かにあれ合唱で歌ったら最高だわ……
全編にわたって大きな役割を果たすベートーベンのピアノソナタビートルズの「blackbird」もどんな曲か分からないというのはちょっと悲しかったかも。
もう十年以上も前の話とは言えピアノやってたくせにクラシックの素養が殆ど皆無というのもいかがかって話ですけどね。
あといい加減にビートルズくらいは音楽の基礎教養としてひと通りあたっておくべきなのかも。


でもまあホントに面白かったです。
たぶん今まで読んだラノベの中じゃトップクラス。