『ラブライブ!』12話の展開は「無駄シリアス」なのか?

全国百万人のラブライバーの皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
ハバネロです。

冬クールのアニメもぼちぼちクライマックスを迎えつつある時期ですが、『ラブライブ!』がずいぶんエライことになっておりますね。あいまいみー』のキチガイ具合にやられて円盤購入を検討している場合じゃなかった。

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さて、話を戻しましょう。
特に12話の展開は巷でも賛否両論渦巻いているようですね。
「なんでシリアス要素入れたの……」
「これあと一話でまとめるにしても最終話酷いことになるんじゃ…」
「海未ちゃんにあの台詞言わせんのはねーわ」
などなど。

まあ一理あると言えなくもない。
……ただ、エリーチカ加入の辺りからハッキリと見えてきた『ラブライブ!』が描こうとしていることが何かを考えると必要な布石であるとも言えるのです。

「目的」と「絆」という武器が奪われた状況で。

さて、ラブライブに関しては、先日アニメ版『アイドルマスター』との比較を軸にひとつ記事をあげました。

●ラブライブとアイマス、ふたつのアイドルアニメの違いってなんだろう。―シャングリラ激辛紀行
この中で、ラブライブにおいては「廃校の阻止」という大きな目的があって、そのために頑張っていくことを描くのがテーマではないか、と書きました。

12話で穂乃果がおかれた状況は、「廃校の阻止」ひいてはそのための「ラブライブへの出場」という「目的」がすべて取り上げられた状況、ということになります。
とりあえず来年度の生徒受け入れは決まって目先の廃校は阻止され、ラブライブにも出場できないけれど、頑張って出場する必要はなくなった。
今まで穂乃果を動かしてきた「廃校を阻止する」という目的はここで一旦、なくなってしまいます。


もうひとつ重要な要素としては、「絆」

コレに関しては、シリアス展開となった11話・12話の前が、ことりちゃん回+合宿回というのが効いている気がします。
ことりちゃん回(9話)で穂乃果・海未・ことりの幼馴染トリオの絆を再確認し、合宿回(10話)でメンバー全員の結束を高める……
これをやったあとにシリアス展開かますのはおかしくね?という意見も散見されるんですが、この配置は正解だと思います。
何故かと言えば、穂乃果にとって、μ'sの面々との絆がとても大事なものになっている、という描写を挟んだ上でこの展開に持っていく必要があるからだと、僕は考えます。


ラブライブ全体のストーリーの中で、今回は穂乃果にとって二度目の挫折、ということになります。
一度目は勿論、三話の講堂ライブの時。
あの時の挫折は、「目的の為に頑張って結果が出なかった、それでもあなたは頑張れるの?」という覚悟を問うために必要なものでした。
そこからメンバーを増やし、努力を重ねることでμ'sはラブライブ出場をあと一歩で手中に収めるところまで進んでいったのは御存知の通りです。

μ'sがそうやって進んでこれたのは、勿論全員の力によるものが大きいんですが、センターを決める回(6話)で示された穂乃果のリーダーとしての資質とも決して無関係ではないと思います。
穂乃果は突出したスキルは持っていないものの、皆の得意な部分、良いところを生かして、その人に信じて託すタイプのリーダーである、というのを感じました。

穂乃果の武器は「目的のために結果を気にせずに突っ走れる」ことと、「誰かを信頼して託す」ことです。
つまり、「目的」と「絆」。
二度目にあたる今回の挫折はその両方が失われた状態。
ゆえに、その前に絆を深めるための回が必要でした。
更に言えば今回の失敗は、そうした穂乃果の武器が暴走した結果であるとも言えます。ラブライブ出場のために文化祭ライブを成功させなくちゃ、との思いから過度なトレーニングをしてぶっ倒れる。
幼馴染であり、最初の友達であることりちゃんのことを信頼しすぎていたからこそ、その異変に気づけなかった。

そうした自らのストロングポイントが、逆にウィークポイントになって今回の事態を招くことになった。
そして、「スクールアイドルやめる」とまで言わせた。
あえてそんな状態を作って、問うべきこととは何なのか。
それについては、次の項で述べたいと思います。

「何がやりたいの?」というテーマと、「はじまりへの回帰」

ラブライブ!』のストーリーにおいて、「やりたいことはなに?」というテーマは繰り返し語られている所です。
それが濃くなってきたのはやはり、一年トリオの加入をメインに置いた4話「まきりんぱな」でしょうか。
花陽は「アイドルへのあこがれを実現したい」、真姫は「医学部進学のための勉強もだけど、やっぱり音楽もやりたい」、凛は「一度からかわれてトラウマになったけど、可愛い服着たい」というそれぞれの理由からμ'sへの加入を決めました。
希と絵里が加入する8話では、サブタイトルにもなっていますね。


このように、本編で大きなファクターとして扱われている「やりたいことはなに?」というテーマ。
ことりが留学する理由は、「服飾の勉強をしたいから」。
穂乃果の「やりたいこと」の対立軸が、ことりの「やりたいこと」であるというのは、象徴的といえる気がします。

そんな状況で、「スクールアイドルやめる」と言い出した穂乃果に対して、まず憤ったのがにこ先輩であり、続いて最低発言に平手打ちまでかましたのは海未でした。
にこ先輩のやりたいことは「皆を笑顔にしたい」であり、そのために彼女はアイドルとして活動しています。
アイドルとしての活動に人一倍のプロ意識と、きっちりとした持論まで持つにこ先輩がここで怒るのは、ある意味当然のことと言えるでしょう。
(個人的にはそれを必死で抑える真姫を見て、「にこまきキタアアアアアア!!」ってなってたんですが本筋に関係ないので割愛します)


ではなぜ海未ちゃんはあそこまでマジギレしたのでしょう?
真面目な性格ゆえ、穂乃果の発言に憤りを隠せなかったから、それも勿論あるでしょう。
しかし、今「やりたいこと」を穂乃果以上に見失って苦しんでいるのは海未であるから、と言える気もするのです。

僕の見落としだったら死ぬほど申し訳ないのですが、ここまで劇中で海未の「やりたいこと」はあまりきっちりと描写されていない気がします。もちろん序盤で恥ずかしさに耐えながら衣装着たり作詞したりしてるわけで、「恥ずかしいけどこういうことやりたい」というのは描かれていると言っても良いでしょう。

しかし、恥ずかしさを感じながらも海未がそうやって頑張っている理由は、穂乃果やことりに引っ張られているからという一面は見逃せないと思うのです。
穂乃果・海未・ことりの幼少期のエピソードを見ると、引っ込み思案な海未にとって、穂乃果とことりは初めて出来た大事な友だちであるということがはっきりわかります。
また、9話の終盤には、神田明神で三人が絆を再確認するシーンもありました。
穂乃果・海未・ことりの二年生トリオの結びつきは、他学年に比べてかなり強いものとして描かれています。もちろん三人ともその絆を大事にしているのですが、一番そこに愛着を感じているのはその実海未なのではないか、という気がします。
海未がなぜ、ことりから相談を受けながら留学の件を穂乃果に話せなかったか。
それはおそらく、三人の絆が崩れることを予見してしまったから、「三人でずっと一緒にいたい」という海未自身の「やりたいこと」が消えることを恐れたからではないでしょうか。
そして、その不安がことりの留学と、目的を見失った穂乃果のアイドルやめる宣言によって現実になってしまったからこそ、思わずあんな発言をしてしまった……んじゃないかな、と。


μ'sの活動は、穂乃果・海未・ことりの三人から始まりました。
今、終わりにあたって物語はもう一度三人にフォーカスされています。
そして「やりたいことは?」という繰り返し扱われてきたテーマが問われています。
一話から「廃校を阻止したい!」という穂乃果に引っ張られて、意志を一つにして頑張ってきた三人を、バラバラにすることでそれを問う。

あえて後半にことりメインの回を持ってきたこと、序盤から「やりたいことは何?」というテーマをちりばめてきたこと、そのために穂乃果の武器である「目的」と「絆」をとりあげて見せたこと。
……全部そのための布石なんじゃないかって気がしてきました。
こうしてテーマを小出しにしつつ、最初のスタート地点に戻ってくる、この構成は正直、見事という他ありません。
(僕が「好きなものはとりあえず絶賛する」というどうしようもない人間であるというのは自覚してますが、それはとりあえず置いときます)

"楽しいだけじゃない、試されるだろう"
―やりたいことは何なの?
―大事なのは絆なの?それとも夢なの?

その問いに対して、穂乃果の、海未の、ことりの出す答えとは。
今はただ、次回を待ちたいと思います。

これからのSomeday/Wonder zone

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