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才能を持つ者の、進むべき道とは? ―竹葉久美子「やさしいセカイのつくりかた」

漫画

自らの非才ゆえに壁にぶち当たって唸る日々です。ハバネロです。
梅雨入りに加えて台風も接近という昨今のお天気が更にアンニュイ気分に拍車をかけてくれますね……


さて、先日久々にNRRRにゲスト出演させていただいた折、漫画話になりまして(というかそれやるなら混ぜて!って突撃していったんですがw)その時に卓球Pからオススメしていただいた作品がとても良かったのでひさびさにこっちでもその話をしようかなあ、と。

というわけで本日ご紹介するのは、NRRRで「ハバネロさんは絶対気に入ると思う」と言われた二日後に本屋に行ってゲットしてきました、竹葉久美子やさしいセカイのつくりかたになります。

物理学の天才的な素養を持ち、アメリカの大学院で研究生活をする主人公・朝永悠。
しかし、資金難により彼の研究は頓挫してしまいます。失意の中で日本に帰国した彼は、中学時代の恩師の手で女子高の講師に就任することに。
赴任した学校で悠が出会ったのは、天才的な数学の才能を持ちながらそれを表に出そうとしない少女・広瀬葵(表紙のピンク髪の子)と、気の強い問題児・草壁ハルカ(金髪の子)。
彼女たち二人を中心とした生徒や周囲の人物に振り回される日々を通じて、悠の、そして二人の成長を描く、というのがストーリーの骨子。
こう書いてしまうと言っちゃあなんですがありきたり、といえばありきたり。
しかしながら、その「ありきたり」な中身を卓越した心理描写で魅せるのがこの作品の見所、と言えるでしょう。

悩める二人の天才の、進むべき道とは。

さて、「一般人のなかに混ざっていくことで成長する天才」を主人公とした作品といえば、僕の中では真っ先に「ばらかもん」が連想されてしまったりします。あっちも好きなのでw

ばらかもん 1 (ガンガンコミックスONLINE)

ばらかもん 1 (ガンガンコミックスONLINE)

もっとも、「ばらかもん」の半田先生が「大人になれないまま大きくなっちゃった天才」なのに対して、こちらの主人公である悠は、十代でアメリカに渡り、飛び級で大学院に進学したいわば「早く大人になりすぎちゃった天才」であるというところは大きな違いと言えます。
だからこそ、すっ飛ばしてきた「一般人の住むセカイ」に触れていかにして成長していくか?というところがお話の大きな柱の一本になることは自明であると言えます。
ここ最近の「ばらかもん」は半田先生が島を去ることを意識して描かれているのですが、おそらく悠も最終的に高校を離れていくことになるのだろうなあ、と思います。故にその体験を踏まえてどうやって進んででいくのだろうか? というのが朝永悠という天才の「進むべき道」を問う物語としてのストーリーになるでしょうね。
2巻では、「研究者として or 講師として」というひとつの分岐点が示されてきて、そのへんの選択も気になるところであります。


「既に選びとった道をこれからどうやって進んでいくべきか?」という立場に置かれている悠に対して、「これからどんな道を選びとるべきか?」という前段階にいるのがもう一人の天才である葵です。
彼女は前述したとおり、高校レベルを遥かに超えた数学の才能を持っているんですが(羨ましい限りです)、あるトラウマからその事実を表に出さないようにしています。
しかしその一方で、自らの才能がゆえに「知ること」への激しい渇望を抱いている自分がいることを、悠との交流によって気付かされていってもいる部分もあり、「嫌われたくない」という思いと自らの欲望の狭間で葛藤する姿が描かれています。

これは経験談でもあるわけですが、「集団から突出する」ということの中でも、「学問的才能がある」ということは十代の頃ってコンプレックスになりがちだったりします。過ぎてしまえばなんてことない話ではありますし、むしろ開き直ってそっちの道に進むと逆に自分の非才を嘆くハメになる僕のようなパターンに陥って……というのは余談ですが、とかく「目の前の他人にヘンって思われたくない」という感情はわりあい普遍的なものであり、天才だろうがなかろうがそれは関係ないモンでもあります。
その葛藤の狭間で葵はこれからどんな道を選んでいくのか、というのがおそらくはストーリーのもう一本の柱になると思います。その道を選んでいく過程に、講師としての悠が深く関わっていくというのも予想に難くありません。

天才でありながらも、進路について葛藤を抱く葵と、周りの人間(主に女子)に振り回される悠の「天才だって、いやむしろ天才だからこそ人並みに悩む」姿は、どんな人でも親近感を持って読めるのではないでしょうか。

少女漫画的な心理描写による群像劇の妙味。

そんな悩める二人の天才が物語の軸に置かれているのは勿論ながら、周囲の人物たちを巻き込んで展開するちょっとした群像劇的な側面もこの作品の魅力です。
そちら側のメインを張るのがもう一人のヒロインであるところのハルカ、ということになるでしょうか。
ある事件で心に傷を追うとともに、問題児のレッテルを貼られてしまったハルカは、最初こそ悠に対してキツイ態度をとって望みますが、ある事件を境に彼女の中の悠に対する評価はマイナスからプラスへ、そして明確な好意へと変化していきます。

このハルカの描き方が実に少女漫画的。……というよりも、全体的にコマ割りとかモノローグを多用するところとかに少女漫画の要素が非常に色濃く見て取れます。その手の描写が苦手だ、という人もいるかと思うんですが、こと恋愛描写に関してはやはりあのメソッドってかなり効果的なのだなあ、ということを実感できるような気が(自分がそういうのに全くもって抵抗ない人種だからというのもあると思いますが)。
細やかに心情の揺れ具合を描ける漫画って好きだなあと思うことが多くて、だいたいそれも女性の描いてる作品が多いんですが、この作品にもやっぱりそれは当てはまっちゃいますね。

あとは主役級だけじゃなくてちゃんと脇役までエピソードを描いていく、っていうのが深みがあって良いですね。二巻では、悠と葵とハルカだけじゃなく他のキャラクターの掘り下げも進んでいって、おそらくは最後で全員分の物語に決着をつけてくれるんだろうなあと今から期待が膨らんでおります。
単純に物語を読む動機として、「これからこの人達はどうなっていくんだろう?気になる!」という部分は非常に大きいですしね。

もちろん、物語としての魅力を絵が支えているというのも非常に大きなファクターですね。表情の描写や単純なキャラクターの可愛さがバランスよくまとまっているタイプの絵だと思います。あんまり萌えに媚びられても引いちゃう人間なのでこれくらいが好きですね。

ということで、「研究に携わる主人公」「天才の持つ等身大の悩み」「「少女漫画的な群像劇・恋愛劇」etc、たいへん僕ごのみの要素がつまった作品でした。
「絶対好きだと思う」って言った卓球さん、あんたは正しかったよ……w



余談ですが、2巻にあった「この世界は直接金に繋がらない理論を実証しようと思ったら力がいる」というセリフがむだに刺さりました。
うちの研究室も金にならない研究ばかりしてるわけですが、その中でさえフルボッコにされている自分……orz
「(金にならない研究してる人に)やさしいセカイのつくりかた」を所望する次第です。