世界ではなく、「個人」を救う物語。―庵田定夏「ココロコネクト」シリーズが面白い

引越しのおかげでしばらくネットと隔絶された生活をしていました。ハバネロです。

引越し作業→大学院の入学手続→旅行 ときてようやく落ち着いた感が(今は実家なう)。
その間、世間的に見ても個人的に見ても色々ありましたが……
ネットも無事使えるようになりましたし、これからようやく平常運転でやっていけそうであります。
(ぼちぼち動画も作るよ!)


さて、そんな生活だと普段以上に読書に費やす時間が増えるわけで、これは!と思うラノベに行き当たりました。
今回はそのココロコネクト」の魅力をご紹介。

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

イラストの魅力、キャラの魅力。

昨今のラノベ事情を考えるとき、作品が氾濫してやや供給過多状態になっているかな?という印象はどうしても拭えません。
ゆえに、そこから抜け出すための作戦としては、やはり表紙・イラストの力って大事だと思います。
一番最初に目に入る部分ですから。

その点、この作品は流行りのツボを抑えている感がありますね。
学校の階段で、こっちを振り向くヒロインの目力。そしてどことなく「けいおん!」を思わせるイラストの絵柄。
すいません、一本釣られ余裕でした。
たぶん、ジャケ買いしたのは僕だけじゃないはずw


で、キャラクターの魅力もイラストに負けず劣らず。
正義感が強いけれど、鈍感な部分もある主人公、八重樫太一。自由奔放でアクティブな少女・永瀬伊織。クールで好戦的な情報通・稲葉姫子。ちっちゃくて可愛いツッコミ担当・桐山唯。
愛すべきアホキャラ・青木義文。

この、「文研部」に所属する五人をメインに話が進んでいく訳ですが、キャラクター同士の掛け合いが非常に素晴らしい。
時には下ネタや暴力めいたツッコミまで飛び出すわけですが、それがまた妙にリアリティがあっていいんですよ。
ともすれば記号的になりがちなライトノベルのキャラクターですが、この作品では等身大の温度みたいなものがあって。
そのへんは本筋とも関わってくるので、詳しくは後述。

不可思議な現象と、そこから浮かび上がる「個人の悩み」。

さて、そんな個性的な「文研部」のメンバーが、振りかかってくる超自然的な出来事に立ち向かっていく、というのがこの作品におけるストーリーの根幹です。

さて、弱小部活のメンバーが超常現象と対峙する、というと、なんとなく、大ヒット作品である涼宮ハルヒシリーズを想起します。

しかし、時には「世界」の存続レベルに関わる問題が起こったりして、*1全編をSFめいたテイストが覆うハルヒシリーズとは違い、本作ではそのようなことは殆ど起こりません。
超常的な現象を通して明らかにされ、解決がはかられていくのは、「世界の存在に関わる問題」ではなく「個人の悩み」なのです。


たとえば第一巻では、文研部メンバーを「人格入れ替わり」という現象が襲います。
その人格が入れ替わるという特殊現象を通して、次第にキャラクターの抱える悩みや問題が明らかになっていきます。
人格が入れ替わるという「不可解な現象」についてどう対策をしていくか、ということに加えて、個人が抱えている悩みをどう解決していくか、というのがストーリー上の二本柱になります。
そこで出てくる悩みや問題は、どれも日常に普通に転がっていそうなものばかり。*2
そうして明るみになった個々人の問題に対して、主人公である太一をはじめとしたキャラクターがそれぞれ解決に向けて奔走していくわけですが、その解決にあたっても超常的な力を使うわけではありません。
あくまで、一人の人間として高校生として、出来ることの範囲を逸脱していないのです。
派手さはないですが、それゆえに人の温度を感じられる作品に仕上がっています。


このあたりは、高屋奈月フルーツバスケットに似ているような気がしますね。

フルーツバスケット (1) (花とゆめCOMICS)

フルーツバスケット (1) (花とゆめCOMICS)

「十二支の呪い」や「人格入れ替わり現象」はあくまでもギミックでしかなく、物語の本質は「キャラクターの心の問題を解きほぐすこと」に置かれていることや、聖人君子のように見える主人公も問題や悩みを抱えてたりすることなんかがそうですね。
あと、ギャグとシリアスのバランスや、ラブコメ成分の使い方の上手さも似通っている部分かもしれません。
ココロコネクト」も二巻以降、太一を取り巻く三角関係の形成が見えてきたりと、ラブコメ的にも面白い感じになりそうなので、非常に楽しみです。

ココロコネクト」はラノベ的「日常の謎」モノ?

さて、ここまで、ココロコネクト」は「超常的な現象」に対峙することで、そこに隠れた「登場人物の悩み」を解消していく物語であることを述べてきました。


ここでちょっと思い出したのが、米澤穂信に代表される、「日常の謎」をメインに据えた青春ミステリを描く作家陣です。

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

退出ゲーム (角川文庫)

退出ゲーム (角川文庫)

本格推理委員会 (角川文庫)

本格推理委員会 (角川文庫)

これらの作品群は、日常の中で出会う「ミステリ的な謎」を解決していくことと、登場人物の内面の成長を描く青春モノの要素が二本柱になっています。
物語の構造としては、「ココロコネクト」と似通っていると言えるのではないでしょうか?
とくに、最後にリンクを貼った日向まさみち「本格推理委員会」は主人公とその家族の抱える問題を「学校で起こる謎」との解明とともに解きほぐす作品で、ココロコネクトを読みながら、そういえばこれが一番印象が似てるかな?と思った作品でありました。*3


ゼロ年代以降、中高生のいわゆるティーン世代を主人公に据えた青春ミステリものは着実にその数を増やし、今やちょっとしたブームになりつつあります。
おそらく、その背景には、若い世代*4が物語やヒーローに求めているのは、「奇怪な難事件を解決する明晰な頭脳」や「世界の危機を救う凄い力」ではなくて、「日常にあたりまえに転がっている問題を解決するちょっとした力」にシフトしていることがあるのではないでしょうか。

そういったことと考え合わせると、米澤穂信みたいな作家が若い世代の支持をうけ、ライトノベル界隈ではありきたりなギャルゲ的ラブコメが氾濫し、ひとつの作品が抜け出すのが難しい昨今において、ココロコネクト」はちょっとした台風の目になる可能性があるんじゃないかな?と思います。
コミカライズ*5やドラマCD*6といったメディアミックスもされていますし、今後要注目のシリーズですよ!


ココロコネクト キズランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト キズランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト カコランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト カコランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト ミチランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト ミチランダム (ファミ通文庫)

FB CollectDrama03「ココロコネクト 夏と水着と暴風雨」

FB CollectDrama03「ココロコネクト 夏と水着と暴風雨」

*1:アレがホントに世界の危機なのかは結構謎ですが。こまけぇこたあ(ry

*2:ちょっとしたネタバレですが、「ほんとの自分ってどんなの?」とか「他人を心から信じることが出来ない」とか。

*3:個人的にこの人の書く他の作品を読んでみたいんですが、これ書いて以後音沙汰なし(涙目)

*4:とか偉そうに言ってますが僕もまだソッチ側に含まれる気がw

*5:作画はpixivのランキングでもおなじみのCUTEGさん

*6:水島大宙豊崎愛生沢城みゆき金元寿子寺島拓篤という豪華キャスト